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「保全」と「保存」

 「保全」と「保存」という言葉は、私たちも普段から何気なく使っているのですが、これらの概念には、大袈裟に言えば宗教的、あるいは哲学的、さらに歴史的、経済学的系譜があり、特に自然観をめぐる解釈では西洋と日本のように国や民族によって決定的な違いが見られます。


例えば、旧約聖書には「産めよ、増えよ、地に満ちて地を従わせよ。海の魚、空の烏、家畜、地の上を這う生き物をすべて統治せよ」(創世記)とあります。神が人類に自然の統治(あるいは保全)を委ねたと解釈できます。こうしたキリスト教的世界観が今日の環境問題を引き起こしたという学説も少なくありません。
 一方、東洋人は仏教の影響が強く、生きるもの全てが仏であるという考え方があります。生々流転も「万物が生死を繰り返し、絶えず移り変わってゆく」という意味であり、「生類哀れみの令」などにみられるように、昔から自然の生き物を人間とあまり区別していません。特に日本人は、自然のあらゆる場所に神が宿っていると考えたりします。
 オーストラリアの哲学者であるジョン・バスモアはこう言っています。

「保全(Conservation)の思想は、自然環境を人間のための
<道具>であるとみなす。これに対して保存(Preservation)の思想は
自然環境に<それ自体の価値>が備わっているとみなす。
― 岩波現代選書『自然に対する人間の責任』 ―


保全と保存はどう違うのか、英語の意味を分りやすく対比してみます。

保全(Conservation)
~守る
ある程度手を加えながら管理する
人間のために自然を守る
Conserve (自動詞)「節約する」



保存(Preservation)
~守る
もともとあるものに手を加えない
自然のために自然を守る
pesere (自動詞)「禁猟区にする」

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もっとも、この「保全」と「保存」という概念は、言葉の意味としては明確に区別されるものの、現実的な行動においては曖昧さがつきまといます。
例えば、武家屋敷のような伝統的建築物を「保存」しようとした場合、実際には修理、屋根のふき替えといったメンテナンス(保全)が必要となり、保存(もともとあるものに手を加えない)という概念とはズレてきます。
あるいは、もし世界遺産の白神山地が山火事になった場合、人間の管理に反対してきた保存派の人たちでも消火すべきかどうか悩むでしょう。「山火事そのものが植生を変化させることによって白神山地が生き延びてきた。人間は何が起ころうと自然に介入すべきではない」というのが保存派の基本的思想だからです。しかし、そうは言っても山火事が町に飛び火して犠牲者が出たりしたらたいへんな騒ぎとなります。

 さらに、この保全と保存に加えて「保護(Protection)」という概念が加わって、話はややこしくなります。「保護」は保全派とも保存派とも容易に手を結びます。
これ以上は煩雑になるので言葉の詮索はやめますが、いずれにせよ、こうした思想的概念が曖昧なまま、日本でもダム建設や干潟干拓をめぐる推進派と反対派の対立が繰り返されてきたわけです。
 さて、これまでの環境問題や自然保護運動は「保全」「保存」「保護」が混在していたものの、どちらかといえば「保存」「保護」に軸をおく考え方でした。
しかし、近年の生物多様性をめぐる企業の対応は、明確に「保全」を目的としたものと言えるでしょう。保存や保護という目的であれば自然を利用できない。つまり、人間のために自然を守る。もっと言えば、企業活動のために自然を保全(管理、節約)するということです。

 181カ国からなる世界最大の自然保護機関である国際自然保護連合(IUCN)は、以前はIUPN(International Union for Protection of Nature)を名乗っていたのですが、1956年からIUCN(International Union for Conservation of Nature and Natural Resources)に改めました。つまり「自然保護(Protection of Nature)」から「自然と自然資源の保全(Conservation of Nature and Natural Resources)に名称を変更したわけです。同連合は「保全(Conservation)」の意味として、「人間とのかかわりにおける自然および自然資源を賢明かつ合理的に利用すること」であることを明確にしています。
6度目の大絶滅を迎えているかもしれないという事態にいたって、経済界の「生態系サービス」を守らなければならないという目的は、完全に国際自然保護連合(IUCN)の提唱する「保全(人間とのかかわりにおける自然および自然資源を賢明かつ合理的に利用すること)」と一致したということになります。

冒頭でとりあげたネスレ社の異常に素早い行動も、こうした世界の経済界の潮流があったからでしょう。あるいは、すでに同社は原材料の調達やオランウータン保護のガイドラインを製作中であり、問題のパーム油も使用を減らしている途中での出来事だったのかも知れません。

さて、ざっと以上が、世界の経済界において「生物多様性」という環境問題が経済の問題として浮上してきた大きな理由であろうと思われます。
それでは日本はどうなのでしょうか。日本もやはり6度目の大絶滅時代にまきこまれているのでしょうか。



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